2021年 司法試験 論文式 労働法 第1問
問題
配点 50点[労 働 法]
〔第1問〕(配点:50)
次の事例を読んで,後記の設問に答えなさい。
【事 例】
有料職業紹介事業を営むY社は,本社と事業所が一体となった事業場1か所のみで,労働者6人を使用して事業を行っていた。
Y社と無期労働契約を締結して雇用されているX1は,時間外・休日労働の時間数が1か月当たり60時間を超える状態が続く中で,Y社社長のAから,午後8時以降は会社内で勤務しないようにとの通告を受けた。そこでX1は,やむを得ず,求職者の個人情報等の機密情報が記録された記憶媒体(以下「媒体」という。)を,Y社の許可を得ることなく自宅に持ち帰り,自宅で深夜まで残務処理を行うようになった。そのような状況が続いたある日,X1は,会社から帰宅する電車の中でうたた寝をしてしまい,媒体の入った鞄を紛失した。X1は,翌朝出勤してすぐに,Aに媒体を紛失した経緯を説明した。AとX1は,媒体に個人情報が記録されていた求職者160人と連絡を取り,媒体紛失の経緯を説明して謝罪した。Y社は,これらの求職者160人に対し,お詫びの品として金券3000円相当をそれぞれ送付した。
Y社は,就業規則を作成していなかったが,各労働者との間で労働契約を締結する際に,後記の労働契約書を手交し,各労働者の署名・押印を得ていた。Y社は,X1の前記の媒体紛失行為が労働契約書第18条第3号,第4号及び第10号記載の懲戒事由に該当するとして,X1に弁明の機会を与えることなく,同第19条に基づき,X1を7日間の出勤停止処分とした。また,Y社は,前記の媒体紛失行為によるY社の損害額を48万円とし,X1に対して48万円の損害を賠償するよう請求した。
その後Y社は,他の大手企業に顧客の多くを奪われていく中で,売上げが3年連続で低下し,労働者6人を雇用し続けることが難しい状況となった。そこでAは,「会社の経営方針を正しく理解し,経営改革に柔軟に対応してくれる人材」の雇用を継続し,これに該当しない者2人を解雇するとの方針を立てて,Y社の労働者全員が出席する朝礼の場で,この方針を説明した。このAからの説明に対し,労働者からは特段意見や質問は出なかった。そこでAは,この方針に基づいて被解雇者を決定することとし,全労働者6人の中から,これまでの勤務態度に照らし,会社への協調性や柔軟性に欠ける傾向にあると評価したX2及びX3の2人を選定した(会社の経営方針に協力的であると評価していたX1は,被解雇者に選定しなかった)。Aは,X2及びX3に対し,被解雇者に選定されたことを説明し,30日の予告期間を置いて,両名を解雇した。なお,Y社と各労働者との間で締結された労働契約書には,解雇に関する定めはない。
【労働契約書(抜粋)】
第18条 従業員が次の各号の一に該当する場合は,第19条の定めるところに従い,懲戒を行う。1,2 (略)
3 会社の許可なく,会社の物品や機密情報を持ち出したとき。
4 不正な行為により,会社の名誉・信用を毀損し,又は,会社に損害を与えたとき。
5~9 (略)
10 前各号に準ずる程度の不都合な行為をしたとき。
第19条 懲戒は,けん責,減給,出勤停止(14日間を限度とし,無給とする),諭旨退職,懲戒解雇の5種類とし,会社は情状に応じて処分を決定する。
〔設 問〕
1.Y社がX1に対して行った出勤停止処分は有効か。検討すべき法律上の論点を挙げて,あなたの見解を述べなさい。
2.Y社からX1への損害賠償請求は認められるか。検討すべき法律上の論点を挙げて,あなたの見解を述べなさい。
3.Y社がX2及びX3に対して行った解雇は有効か。検討すべき法律上の論点を挙げて,あなたの見解を述べなさい。
出典:法務省「2021年司法試験論文式試験問題」。原本PDFから本文・表・図を抽出し、字下げ・下線・枠などの体裁を保ったまま、画面の幅に合わせて折り返しています。