2016年 司法試験 論文式 経済法 第1問
問題
配点 50点[経 済 法]
〔第1問〕(配点:50)
A社は,日本で一般消費者向け電子機器甲(以下「甲」という。)の製造販売に従事する事業者である。甲は,平成21年に初めて販売された画期的な製品であり,世界全体で甲を製造販売している事業者は,現時点で,A社以外には,やはり日本に拠点を置くB社しか存在しない。A社とB社は激しくシェアを争っており,各社のシェアの年による変動は大きい。C社及びD社は,いずれも,日本で電子機器等に使用される部品の製造販売に従事する事業者である。平成24年に,A社は,甲の新しいバージョンを開発するに際し,C社に対して,甲の主要な部品乙(以下「乙」という。)の開発・製造を依頼し,そのために必要な技術情報を開示することを申し出た。C社は,この依頼を受け,A社が製造する新しいバージョンの甲向けに乙を開発・製造した上で,平成25年度から1四半期当たり約200万個から300万個の乙をA社に納入するようになった。平成25年には,A社は,D社に対しても,同様の依頼と申出を行い,D社は,この依頼を受けて,平成26年度から1四半期当たり約150万個から200万個の乙をA社に納入するようになった。A社が製造する甲に用いられる乙は,固有の仕様と性能を求められるため,A社が製造する甲以外の電子機器に転用することは不可能である。C社及びD社以外に,世界で乙の製造販売に従事する事業者としては,中国に拠点を置くE社が存在し,E社は,B社が製造する甲向けに乙を製造し,B社に納入していた。
平成26年12月頃,取引先の拡大を図ろうとしたE社は,A社に接近し,従来品と性能は同じだがより安価な乙を,A社が製造する甲向けにも開発できると持ち掛けた。その結果,A社は,E社に対しても乙の開発・製造を依頼し,必要な技術情報をE社に提供した。E社のA社に対する乙の納入開始は,平成27年12月頃に予定されている。E社がA社から乙の開発・製造の依頼を受けたことは,A社の調達担当者からの情報として,平成26年の年末までにはC社及びD社の取締役会において紹介されていた。
平成27年1月初旬,C社の営業担当取締役rとD社の営業担当取締役sは,C社とD社が共に参加する商品展示会に赴いた際の雑談の中で,従来のA社による乙の価格引下げ要求は極めて理不尽であり,原材料費が高騰している中でそのような要求がまかり通れば,乙の生産基盤が日本から失われかねないので,両社が一致協力してA社との交渉に当たるべきであるとの認識で一致した。そして,両社の協力の具体化のため,平成27年4月~6月期(以下「本期」という。)における乙の納入に関してA社と商談をする前に,互いにA社に提示する乙の価格について意見を交換し,かつ,A社との商談の内容について情報を交換する仕組みを構築することで一致した。なお,rとsは,それぞれC社とD社において,乙の価格を決定する権限を有していた。
これを受けて,平成27年2月初旬から,C社の営業課長tとD社の営業課長uは,それぞれ,上司であるrとsの指示を受けて,A社に提示する乙の価格及びA社との商談の様子について,電子メール(以下「メール」という。)による情報交換を始めた。その後tとuとの間でやり取りされたメールの宛名には常にrとsのメールアドレスも含まれており,rとsは,tとuとの間で交わされたメールの内容を把握していたが,自ら情報交換に加わることはなかった。uは,同月15日にtに送信したメールの中で,乙の単価(1個当たりの納入価格)について,従来は2800円とされてきたが,原材料費の高騰に鑑みて,本期分は3000円を提示したいと考えている旨を伝えた。tは,同日,これに対する返信メールの中で,乙の単価が2950円であっても,受注数量が200万個以上であれば採算が取れることから,A社との交渉では,2950円を下回らない範囲であれば許容範囲であると答えた。uは,同日,これに対する返信メールの中で,自分も同意見である旨を伝えた。
この意見交換の後,本期分の乙の単価として,C社は2990円を,D社は3000円をA社に提示した。A社は,C社及びD社との交渉の中で,B社との競争の厳しさを強調し,C社及びD社に対する発注数量の配分を大幅に見直す可能性にも言及しつつ,当該単価を2930円以下とするよう強く求めたが,C社及びD社の両社とも,原材料費高騰のため,その水準では採算が取れないとして,これに激しく抵抗した。それぞれA社と交渉した結果,平成27年3月初旬に,本期分の乙の単価について,C社は2960円で,D社は2970円でA社と妥結した。tとuは,C社とD社がA社との間で交渉妥結に至るまでの状況を,逐一,メールで知らせ合い,その内容は上司のrとsにも伝わっていた。C社とD社は,それぞれA社と妥結した単価で本期分の乙を受注し,その受注数量は,C社が270万個,D社が200万個であった。
〔設 問〕
C社及びD社の上記行為について,私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(以下「独占禁止法」という。)上の問題点を分析して検討しなさい。
出典:法務省「2016年司法試験論文式試験問題」。原本PDFから本文・表・図を抽出し、字下げ・下線・枠などの体裁を保ったまま、画面の幅に合わせて折り返しています。