2014年 司法試験 論文式 国際関係法(公法系) 第2問
問題
配点 50点〔第2問〕(配点:50)
甲国と乙国は,共にヘーグ陸戦ノ法規慣例ニ関スル条約(以下「ヘーグ陸戦条約」という。)の当事国であり,かつ,同条約批准後に交戦状態となった。甲国の上級軍人Aは,乙国との交戦中に捕虜となり,乙国の捕虜収容所に送られ,過酷な強制労働等の虐待を受けた。
交戦状態の終了後,甲国は,事実上分裂し,それまで唯一の政府であったX政府が支配する地域と新しく生まれたY政府が支配する地域に分裂したまま,膠着状態が続いている。Aは,帰国後Y政府の支配地域に居住している。甲国の分裂後,しばらくの間,Y政府の支配地域には,Y政府の要請に基づき,隣国丙の軍隊が駐屯し,治安と防衛を担っていた。Y政府は,政府樹立当時,兵員,治安要員共に人員数が不足し,丙国の軍隊派遣なくしては,単独では政権を十分に維持することができなかった。
XY両政府とも甲国の正統政府であると主張して譲らず,他方を否認し,現在に至るまで,他方と国交を結んだ国とは外交関係を断絶するとの政策を維持している。
丙国は,自らの軍隊をY政府の支配地域に駐屯させて治安と防衛の役割を担わせた直後,直ちに丙国の外交使節団をX政府の所在地から退去させるとともに,Y政府を甲国の正統政府として承認し,Y政府の所在地に外交使節団を派遣した。これに対してX政府は厳重な抗議を行った。
乙国は,終戦直後から,X政府を引き続き甲国の正統政府として扱っていたが,丙国の軍隊がY政府支配地域から完全に撤収後,Y政府が自らの支配地域において十分に治安と防衛の役割を果たすようになってから,X政府に派遣していた外交使節団を引き揚げ,Y政府を甲国の正統政府として承認し,Y政府の所在地に外交使節団を派遣した。その際,Y政府は,甲乙両国間の戦争に起因する賠償請求権は一切放棄することを一方的に宣言した。
上記の乙国によるY政府への政府承認切替え後,Aは,乙国の裁判所において,ヘーグ陸戦条約第3条(「前記規則(陸戦ノ法規慣例ニ関スル規則)ノ条項ニ違反シタル交戦当事者ハ,損害アルトキハ,之カ賠償ノ責ヲ負フヘキモノトス。交戦当事者ハ,其ノ軍隊ヲ組成スル人員ノ一切ノ行為ニ付責任ヲ負フ」)に基づき,虐待への賠償を求めて,乙国を提訴した。ヘーグ陸戦条約の附属書である陸戦ノ法規慣例ニ関スル規則(以下「ヘーグ陸戦規則」という。)は,第2章「俘虜」を置き,捕虜の保護を規定しているが,特に第4条では,「俘虜ハ人道ヲ以テ取扱ハルヘシ」と規定している。
以上を踏まえて,下記の設問に答えなさい。
問1.Aが,乙国裁判所において賠償請求をする場合に,ヘーグ陸戦条約及びヘーグ陸戦規則は根拠となり得るか論じなさい。
問2.Aの賠償請求に関して,乙国は,Y政府が行った請求権放棄の一方的宣言をその反論の根拠とすることができるかを論じなさい(請求権の放棄の範囲については論じなくてよい。)
問3.丙国のY政府承認に対して,X政府が,引き続き甲国を代表しているとの立場から,どのような抗議を行い得るか,乙国のY政府承認との比較において論じなさい。
出典:法務省「2014年司法試験論文式試験問題」。原本PDFから本文・表・図を抽出し、字下げ・下線・枠などの体裁を保ったまま、画面の幅に合わせて折り返しています。