司法試験論文式過去問演習

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2010年 司法試験 論文式 刑事系科目 第2問

問題

配点 100点

〔第2問〕(配点:100)

次の【事例】を読んで,後記〔設問1〕及び〔設問2〕に答えなさい。

【事 例】

1 暴力団A組は,けん銃を組織的に密売することによって多額の利益を得ていたが,同組では,発覚を恐れ一般人には販売せず,暴力団に属する者に対してのみ,電話連絡等を通じて取引の交渉をし,取引成立後,宅配等によりけん銃を引き渡すという慎重な方法が採られていた。司法警察員Pらは,A組による組織的な密売ルートを解明すべく内偵捜査を続けていたが,A組幹部の甲がけん銃密売の責任者であるとの情報や,甲からの指示を受けた組員らが,取引成立後,組事務所とは別の場所に保管するけん銃を顧客に発送するなどの方法によりけん銃を譲渡しているとの情報を把握したものの,顧客が暴力団関係者のみであることから,甲らを検挙する証拠を入手できずにいた。

平成21年6月1日,Pらは,甲らによるけん銃密売に関する証拠を入手するため,A組の組事務所であるアパート前路上で張り込んでいたところ,甲が同アパート前公道上にあったごみ集積所にごみ袋を置いたのを現認した。そこで,Pらは,同ごみ袋を警察署に持ち帰り,その内容物を確認したところ,「5/20 1丁→N.H 150」などと日付,アルファベットのイニシャル及び数字が記載された複数のメモ片を発見したため,この裁断されていたメモ片を復元した[捜査①]。

さらに,同月2日,Pらは,甲が入居しているマンション前路上で張り込んでいたところ,甲が同マンション専用のごみ集積所にごみ袋を置いたのを現認した。なお,同ごみ集積所は,同マンション敷地内にあるが,居住部分の建物棟とは少し離れた場所の倉庫内にあり,その出入口は施錠されておらず,誰でも出入りすることが可能な場所にあった。そこで,Pらは,同集積所に立ち入り,同所において,同ごみ袋内を確認したところ,「5/22 1丁→T.K 150」などと記載された同様のメモ片を発見したため,このメモ片を持ち帰り復元した[捜査②]。

Pらが復元した各メモ片の内容を確認したところ,甲らが,同年5月中に,10名に対して,代金総額2250万円で合計15丁のけん銃を密売したのではないかとの嫌疑が濃厚となった。

2 その後,Pらは,更なる内偵捜査により,A組とは対立する暴力団B組に属する乙が,以前に甲からけん銃を入手しようとしたものの,その代金額について折り合いがつかずにけん銃を入手できなかったため,B組内で処分を受け,甲及びA組に対して強い敵意を抱いているとの情報を入手した。

そこで,Pは,同年6月5日,乙と接触し,同人に対し,もう一度甲と連絡を取ってけん銃を譲り受け,甲を検挙することを手伝ってほしい旨依頼したところ,乙の協力が得られることとなった。この際,Pは,乙に対し,電話で甲に連絡をした際や直接会って話をした際には,甲との会話内容をICレコーダーに録音したいこと,さらに会話終了後には,引き続き,乙にその会話内容を説明してもらい,それも併せて録音したい旨を依頼し,乙の了解を得た。

同月7日午前11時ころ,乙は,乙方近くのE公園において,自らの携帯電話から甲の携帯電話に電話をかけ,甲に対し,「前には金額で折り合わなかったが,やはり物を購入したい。もう一度話し合いたいんだ。」などと言い,甲から,「分かった。値段が張るのはやむを得ない。よく考えてくれよ。」などとの話を引き出した。乙の近くにいたPは,この会話を乙の携帯電話に接続したICレコーダーに録音し,さらに,同会話終了後にされた「自分は,平成21年6月7日午前11時ころ,E公園において,甲と電話で話したが,甲は自分にけん銃を売ることについての話合いに応じてくれた。明日午後1時ころ,F喫茶店で直接会って更に詳しい話合いをすることになった。」という乙による説明も録音した[録音①]。

翌8日午後1時ころ,待ち合わせ場所のF喫茶店において,甲と乙は,けん銃の譲渡について話合いをした。その際,甲と乙は,代金総額300万円でけん銃2丁を譲渡すること,けん銃は後日乙の指定したマンションへ宅配便で配送すること,けん銃の受取後,代金を直接甲に支払うことなどを合意するに至った。隣のテーブルにいたPは,このけん銃譲渡に関する会話をICレコーダーに録音し,さらに,甲が同店を立ち去った後にされた「自分は,平成21年6月8日午後1時ころ,F喫茶店で甲と直接話合いをした。甲が自分にけん銃2丁を300万円で売ってくれることになった。けん銃2丁は宅配便で,りんごと一緒に自分のマンションに配送される。代金300万円は後で連絡を取り合って場所を決め,その時渡すことになった。」という乙による説明も録音した[録音②]。

3 翌9日以降,Pらは,乙がけん銃を受け取ったことを確認し次第,甲をけん銃の譲渡罪で逮捕し,関係箇所を捜索しようと考え,度々乙と電話で連絡を取り,甲からけん銃2丁が配送されてきたか否か確認を続けた。しかし,同月14日午後9時ころ,Pらは,乙が電話に出なくなったことから不審に思い,乙の生命又は身体に危険な事態が発生した可能性があることからその安全を確認するため,乙方マンション管理人立会いの下,乙方に立ち入ると,乙が居間において,頭部右こめかみ付近から出血した状態で死亡しているのを発見した。乙の死体付近にはけん銃2丁が落ちており,その近くには開封された宅配便の箱があり,その中を確認するとりんごが数個入っていた。また,机上には乙の物とみられる携帯電話1台があった。Pらは,甲によるけん銃譲渡の被疑事実について,裁判官から捜索差押許可状の発付を得た上で,発見したけん銃2丁及び携帯電話1台を押収した。さらに,Pらは,押収した乙の携帯電話の発信歴や着信歴を確認したが,すべて消去されていたため,直ちに科学捜査研究所で,消去されたデータの復元・分析を図った[捜査③]。その結果,頻繁に発着信歴のある電話番号「090-7274-△△△△」が確認され,さらにこの契約者を捜査すると丙女であることが明らかとなった。なお,Pらは,乙方では遺書等を発見できず,押収したけん銃2丁には乙の右手指紋が付着していたものの,乙が死亡した原因を自殺か他殺か特定できなかった上,捜査の必要から,乙死亡についてマスコミ発表をしなかった。また,宅配便の箱に貼付されていた発送伝票の発送者欄には,住所,人名及び電話番号が記載されていたが,捜査の結果,それらはすべて架空のものであることが明らかとなった。

4 翌15日午後7時ころ,Pらが乙の携帯電話を持参して丙女方を訪ねると,丙女は,当初は乙を知らないと供述したものの,Pらが乙の携帯電話の電源を入れ,丙女の携帯電話番号の発着信歴が頻繁にあったことを告げると,ようやく,乙と約2年前から交際していたことを認め,乙から,今回警察の捜査に協力していることやそのためにA組の甲からけん銃を譲り受けることを打ち明けられていたなどと供述した。そのような事情聴取を継続中に,突然,乙の携帯電話の着信音が鳴った。Pらは,着信の表示番号が以前に乙から教わっていた甲の携帯電話番号であったので,甲からの電話であると分かり,とっさに,丙女から,電話に出ること及び会話の録音についての同意を得た上で,丙女に電話に出てもらうとともに,乙の携帯電話の録音機能を使用して録音を開始した。すると,甲と思われる男の声で,「もしもし,甲だ。物届いただろう。約束どおりりんごと一緒に届いただろう。300を早く支払ってくれよ。」との話があり,丙女が,乙が死亡してしまったこと,自分は乙の婚約者であることを告げると,甲と思われる男は,「婚約者なら乙の代わりに代金300万円を用意して持ってこい。物は約束どおり届いたはずだろう。」などと強く言ってきた。Pがメモ紙に代金は警察が用意するので待ち合わせ場所を決めるようにと記載して示すと,丙女は,その記載に従って,「分かりました。代金は,乙に代わって私が用意します。待ち合わせ場所を指定してください。」などと言い,同月17日に甲とF喫茶店で待ち合わせることになった。Pは,電話終了後,乙の携帯電話の録音機能を停止して再生し,丙女と甲と思われる男の会話内容が録音されていることを確認した[録音③]。

5 同月17日午後3時ころ,丙女がF喫茶店に赴いたところ,甲が現れたので,Pらは,甲をけん銃2丁の譲渡罪で緊急逮捕した。

甲は勾留後,否認を続けたが,検察官は,本件けん銃2丁,甲乙間及び甲丙女間の本件けん銃譲渡に関する[録音①],[録音②]及び[録音③]を反訳した捜査報告書【資料】,丙女の供述等を証拠に,同年7月8日,甲をけん銃2丁の譲渡罪で起訴した。

被告人甲は,第一回公判期日において,「自分は,乙に対してけん銃2丁を譲り渡したことはない。」旨述べた。その後の証拠調べ手続において,検察官は,「甲乙間の本件けん銃譲渡に関する甲乙間及び甲丙女間の会話の存在と内容」を立証趣旨として,前記捜査報告書を証拠調べ請求したところ,弁護人は,不同意とした。

〔設問1〕 下線部の[捜査①]から[捜査③]の適法性について,具体的事実を摘示しつつ論じなさい。

〔設問2〕 【事例】中の捜査報告書の証拠能力について,前提となる捜査の適法性を含めて論じなさい。

【資料】

捜  査  報  告  書

平成21年6月18日

○○県□□警察署

司法警察員 警視P 殿
○○県□□警察署
司法警察員 巡査部長K ㊞
被疑者甲

(本籍,住居,職業,生年月日省略)

上記の者,平成21年6月17日,銃砲刀剣類所持等取締法違反被疑事件の被疑者として緊急逮捕したものであるが,被疑者は,乙及び丙女との間で電話等による会話をしており,その状況を録音したICレコーダー及び携帯電話を本職が再生して反訳したところ,下記のとおり判明したので報告する。

記

1 平成21年6月7日午前11時ころ~午前11時5分ころ,電話による通話等

⑴乙 「もしもし,乙ですが,この間は申し訳なかったね。」

「やはり,物必要なんだ。前には金額で折り合わなかったが,やはり物を購入したい。もう一度話し合いたいんだ。」

甲 「今更何言ってるの。物って何のことよ。」

乙 「とぼけないでくださいよ。×××のことですよ。」

甲 「前は,高過ぎるとか,ほんとに良い物なのかとか,うるさかったじゃない。うちのは××××とは違うんだよ。」

乙 「悪かったね。やはりどうしても欲しいんだ。助けてほしい。」

甲 「分かった。うちの回転×××の×××は物が良いので,値段が張るのはやむを得ない。よく考えてくれよ。」

乙 「よく分かったよ。明日1時に前回と同じF喫茶店でどうだい。」

甲 「分かった。明日会おう。」

ここで,甲乙間の会話が終了し(なお×××部分は聞き取れず),引き続き,乙の声で,

⑵乙 「自分は,平成21年6月7日午前11時ころ,E公園において,甲と電話で話したが,甲は自分にけん銃を売ることについての話合いに応じてくれた。明日午後1時ころ,F喫茶店で直接会って更に詳しい話合いをすることになった。」との話が録音されていた。

2 同月8日午後1時ころ,F喫茶店における会話等

⑴乙 「お久しぶり。この前は悪かったね。」

甲 「だから,この間の条件で買っておけばよかったんだよ。うちの条件は前回と同じ,1丁150万円,2丁なら×××××,物がいいんだからびた一文負けられないよ。」

乙 「分かったよ。それでいいよ。物どうやって受け取るんだい。」

甲 「うちのやり方は,直接渡したりはしないんだ。そこでパクられたら,所持で逃げようないからね。あんたのマンションへ宅配便で送るよ。りんごの箱に入れて,一緒に送るから。受け取ったら,×××渡してくれよ。場所はまた連絡する。」

乙 「それでいこう。頼むね。」

ここで,甲乙間の会話が終了し(なお×××部分は聞き取れず),引き続き,乙の声で,

⑵乙 「自分は,平成21年6月8日午後1時ころ,F喫茶店で甲と直接話合いをした。甲が自分にけん銃2丁を300万円で売ってくれることになった。けん銃2丁は宅配便で,りんごと一緒に自分のマンションに配送される。代金300万円は後で連絡を取り合って場所を決め,その時渡すことになった。」との話が録音されていた。

3 同月15日午後7時15分ころ~午後7時20分ころ,電話による通話

甲 「もしもし,甲だ。物届いただろう。約束どおりりんごと一緒に届いただろう。300を早く支払ってくれよ。」

丙女「私は,乙の婚約者の丙女です。乙は死んでしまいました。」

甲 「ええ。死んだ。本当かよ。どうして死んだんだ。××か。」

丙女「分かりません。でも,遺書はありませんし,近くにけん銃が落ちていました。」

甲 「それはお気の毒だ。でも物は届いたんだろう。それなら,あんたが代わりに300万円払ってくれ。」

丙女「そんなお金は持っていません。」

甲 「婚約者なんだろ。婚約者なら乙の代わりに代金300万円を用意して持ってこい。物は約束どおり届いたはずだろう。」

丙女「分かりました。代金は,乙に代わって私が用意します。待ち合わせ場所を指定してください。」

甲 「本当に用意できるのか。それじゃあ。明後日の17日午後3時,F喫茶店に金を持ってきてくれ。××には言うなよ。」

丙女「分かりました。必ず行きます。」

ここで甲丙女間の会話が終了した(なお××部分は聞き取れず)。

出典:法務省「2010年司法試験論文式試験問題」。原本PDFから本文・表・図を抽出し、字下げ・下線・枠などの体裁を保ったまま、画面の幅に合わせて折り返しています。