2009年 司法試験 論文式 民事系科目 第2問
問題
配点 200点[民事系科目]
〔第2問〕(配点:200〔〔設問1〕から〔設問6〕までの配点の割合は,1.4:4.8:3.8:3:4:3〕)
以下の【事実】1から9までを読んで〔設問1〕から〔設問3〕までに,【事実】10から14までを読んで〔設問4〕に,【事実】15から20までを読んで〔設問5〕及び〔設問6〕にそれぞれ答えよ。
【事実】
1.X株式会社(以下「X社」という。)は,機械を製造して販売する事業を営む会社である。X社が製造する機械のうち,金属加工機械は,25の機種があり,それぞれの機種に1つの型番が付されていて,その型番はPS101からPS125までである。
Y株式会社(以下「Y社」という。)は,ナイフやフォークなど金属製の食器を製造する事業を営む会社である。Y社が製造する商品の中でも,合金を素材とするコップは,特徴的なデザインと独特の触感が好評を得ていて,人気の商品である。
A株式会社(以下「A社」という。)は,物品を販売する事業を営む会社である。A社は,従来,Y社に物品を納入してきた実績がある。
2.Y社は,数年ぶりに,主力商品のコップを製造するために使用する金属加工機械を更新することを決定し,これをA社から調達する方針を固め,Y社の役員であるBが,その実行に携わることとなった。Bは,これまでA社との折衝に当たってきた従業員のCに対し,A社との交渉においては,Y社の主力商品の製造に使用する高額の機械の調達であるから,諸事について慎重を期するよう指示した。
3.Cは,A社の担当者と相談したところ,X社製の型番PS112という番号で特定される機種の金属加工機械を調達することが適切であると考えるに至った。Cの意向を知ったA社の担当者は,X社に問い合わせをし,型番PS112の機械の在庫があることを確認した。
4.このようにして,YAの両社間で交渉が進められた結果,Y社は,平成20年2月1日,A社との間で,X社製の型番PS112の金属加工機械1台(新品)を代金1050万円(消費税相当額を含む。)で買い受ける旨の契約を締結した。売買代金は,まず,そのうち200万円を契約締結時に,また,残金の850万円は目的物の引渡しを受ける際に,それぞれ支払うこととされた。そして,Y社は,同日,A社に代金の一部として200万円を支払った。
なお,A社は,前記の売買契約を締結する際,型番PS112の機械をX社から近日中に売買により調達することをY社に伝えていた。
5.A社の担当者は,Y社との売買契約が締結された平成20年2月1日の夕刻,改めてX社の担当者に電話をし,Y社に転売する予定であることを告げた上,X社から同社製の型番PS112の金属加工機械1台(新品)を購入するに当たっての契約条件を協議した。この契約条件の中には,AX間の売買代金額(消費税相当額を含む。)を840万円とすること,内金100万円は銀行振込みとし,残金740万円についてはA社が支払のために約束手形1通を振り出して交付すること,引渡しの時期及び場所のほか,次に示す注文書の備考欄①②の内容の条件が含まれていた。契約条件の協議が整った後,A社の担当者はX社の担当者に対し,「後ほど発注権限のある上司の決裁を得て,正式に注文書をお送りしますのでよろしくお願いします。」と述べた。A社の担当者は,発注権限のある上司に対し,Y社に売り渡す型番PS112の機械をX社から調達するための協議が整ったことの報告をし,その上司の決裁を得た上,次の注文書を作成し,これをX社の担当者に送付した。この注文書の記載は,担当者間の前記の協議内容を反映するものであるが,品名欄には,型番の誤記があった。
No.0751
平成20年2月4日
注 文 書
X株式会社 御中
○県○市○区○町3-5-1
A株式会社
代表取締役 ○○○○ 印
下記のとおりご注文いたします。
| (1) | 品 名 | 貴社製の金属加工機械(型番PS122) |
| (2) | 数 量 | 1台 |
| (3) | 金 額 | 840万円(消費税を含む) |
| (4) | 支払方法 | 内金100万円は平成20年2月12日に貴社銀行預金口座に振込み。残金は,引渡完了の際に,弊社振出の約束手形1通を交付(額面額740万円,支払期日平成20年4月30日)。 |
| (5) | 引渡時期 | 平成20年2月15日 |
| (6) | 引渡場所 | Y株式会社工場(○県○市○町1-4-12)に貴社から直接納品。 |
〔備考〕
① 本件機械の所有権は,弊社が上記(4)記載の代金を完済するまで貴社が留保し,代金完済時に移転するものとします。
② 弊社が上記(4)記載の代金の一部でも支払わない場合,貴社は,催告をすることなく直ちに契約を解除することができるものとします。
6.この注文書を受け取ったX社の担当者は,受注を決定する権限のある上司に対し,A社の担当者と協議した契約条件で型番PS112の機械の販売を受注したいと説明し,その決裁を得た上,平成20年2月7日,【事実】5記載の注文書と同一内容である注文請書をA社に送付した。なお,この注文請書においても,「(1) 品 名 弊社製の金属加工機械(型番PS122)」と記載されていた。同月8日,これを受け取ったA社の担当者は,確かに注文請書を受け取った旨をX社に連絡した(以下このXA間の売買契約を「本件売買契約」という。)。そして,A社は,X社に対し,同月12日,代金の一部として100万円をX社の銀行預金口座に振り込んだ。
7.X社の納品作業を担当する従業員は,注文請書の写しを参照しながら納品の準備を進め,平成20年2月15日の午前に,A社との約定により直接にY社の工場に,型番PS122の機械1台を搬入しようとした。しかし,Y社の側から,調達しようとしたのは型番PS112の機械であることが指摘されたため,X社の前記従業員は,X社の受注事務担当者と連絡を取ったところ,Y社の指摘のとおりであることが確認された。そこで,いったん搬入を取りやめ,改めて同日午後に型番PS112の機械1台をY社の工場に運んだ(以下この1台の機械を「動産甲」という。)。Y社の担当者が,間違いなく動産甲が型番PS112の機械であることを確認し,動産甲は,滞りなく同日中にY社の工場に搬入された。
そこで,同日,Y社は,A社に対し,両社間の売買の残代金850万円を支払った。また,A社は,X社に対し,支払期日を平成20年4月30日とするA社振出しの額面額740万円の約束手形を交付した。
8.動産甲の取引を担当したA社の担当者は,平成20年2月20日,Y社を訪ね,搬入の過程で機種の取り違いがあった不手際を詫び,それにもかかわらず一連の取引が無事に終了したことへの謝辞を述べた。応接に当たったCは,取引を慎重に進めるように求めた【事実】2記載のBの指示を踏まえ,XAの両社間の代金決済について特にトラブルが起きていないか,ということを質した。これに対し,A社の担当者は,代金の一部が既に支払われていること,及び残代金の支払のため平成20年4月30日を支払期日とするA社振出しの約束手形を交付したことを説明したが,代金が完済されるまでX社が動産甲の所有権を留保していることは告げなかった。Cは,この説明を受けたことで一応納得し,直接にX社に対し取引経過を照会することはしなかった。
9.その後,A社は,平成20年4月30日に前記約束手形に係る手形金の支払をせず,そのころに事実上倒産した。そこで,X社は,A社に対し,【事実】5記載の注文書の備考欄②の特約に基づき,同年5月2日到達の書面により,本件売買契約を解除する旨の意思表示をし,また,Y社に対し,同年5月7日到達の書面により,動産甲の返還を請求した。しかし,Y社がこれに応じないので,X社は,Y社に対し,所有権に基づき動産甲の返還を請求する訴訟を提起した(以下この訴訟を「本件訴訟」という。)。
〔設問1〕 本件売買契約は,何を目的物として成立したものであると考えられるか,理由を付して結論を述べなさい。その際,【事実】5記載の注文書及び【事実】6記載の注文請書にあった型番誤記が本件売買契約の効力に影響を与えるか,錯誤の成否にも言及しつつ述べなさい。
〔設問2〕
⑴ X社のY社に対する本件訴訟において,Y社が,自己の即時取得によりX社が動産甲の所有権を喪失したことを主張しようとするときに,「A社が,平成20年2月1日,Y社との間で,【事実】4記載の売買契約を締結したこと」のほか,次に掲げる事実①及び事実②を主張立証する必要があると考えられるか。それぞれ理由を付して説明しなさい。
① A社が,Y社に対し,平成20年2月15日,【事実】4記載の売買契約に基づき動産甲を引き渡したこと。
② Y社が,①の引渡しを受ける際,A社がX社に対し代金全額を弁済していない事実を知らなかったこと。
⑵ 本件訴訟においてY社のする即時取得の主張に対し,X社から,それへの反論として「Y社は,A社に動産甲の所有権があると信じたことについて過失がある。」との主張がされた場合において,Y社の過失の有無を認定判断する上で,次に掲げる事実③及び事実④は,どのように評価されるか。それぞれ理由を付して説明しなさい。
③ 【事実】4記載のとおり,Y社が,A社がX社との売買により目的物を調達することを知っていたこと。
④ 【事実】8記載のとおり,Y社が,本件売買契約の残代金が平成20年4月30日を支払期日とする約束手形で支払われることを知っていたこと。
〔設問3〕 X社は,本件訴訟において,Y社に対し,動産甲の使用料相当額の支払も併せて請求したいと考えた。X社は,どのような法的根拠に基づいて,いつからの使用料相当額の請求をすることができるか,考えられる法的根拠を一つ示し,その法的根拠が成り立つ理由及びいつからの請求をすることができるかの理由を付して説明しなさい。
【事実】 以下の10から14までは,【事実】1から9までのX社に関するものである。
10.X社は,監査役会設置会社であり,発行済株式総数(普通株式のみ)10万株,株主数5000人の上場企業である(単元株制度は採用していない。)。X社は,財務状況が悪化したため,同じ機械メーカーであり,X社の発行済株式の5%を長年保有して友好関係にあるZ株式会社(以下「Z社」という。)に対し,事業の柱の一つである精密機械製造事業を譲渡するとともに,同社との間に研究,開発,販売等の面における協同関係を築くことにより,この苦境を乗り切ろうと考えた。そして,X社は,平成20年6月2日,Z社との間で,事業の譲渡及び協同関係の構築に向けた交渉を始めるための基本合意を締結した(以下この合意を「本件基本合意」という。)。
11.ところが,本件基本合意の締結後,X社は,財務状況の悪化が急速に進み,キャッシュフローの確保も難しくなったため,本件基本合意に基づくZ社への事業の譲渡によって得ることができる対価による収入や,同社との協同関係の構築だけでは,企業としての存続が危うくなってきた。
12.そのような折,Z社のライバル企業である機械メーカーのD株式会社(以下「D社」という。)がX社に対して合併を申し入れてきた。合併の条件は,X社の普通株式4株にD社の普通株式1株を交付するという合併比率によって,D社を吸収合併存続株式会社とし,X社を吸収合併消滅株式会社とする吸収合併を行うというものであり,D社は,X社の精密機械製造事業に魅力を感じ,同事業を含めてX社の事業全部を吸収合併により取得することを申し入れてきたものであった。
13.X社の取締役会は,Z社よりも企業体力に優るD社に吸収合併されれば,X社は独立した企業ではなくなるものの,同社の財務状況の悪化やキャッシュフロー不足の問題が解決され,事業全体の存続や従業員の雇用の確保につながると考え,平成20年10月8日,Z社との本件基本合意を白紙撤回した上,D社から申入れのあったとおりの合併条件により,X社がD社に吸収合併されることを受け入れることを決めた。
14.これに対し,Z社は,X社の精密機械製造事業を何としても手に入れたいと考え,X社に対し,本件基本合意に基づく事業の譲渡及び協同関係の構築の実現を迫り,D社との合併に反対した。Z社は,本件基本合意に基づき,X社を債務者として,D社との合併の交渉の差止めの仮処分命令の申立てを行ったが,当該申立てが却下されたため,X社に対する本件基本合意違反を理由とする損害賠償請求の訴えの提起を準備している。また,Z社は,X社とD社の合併は,両社の企業規模や1株当たり純資産の比較,X社の培ってきた取引関係や評判等からすれば,その合併比率がX社の株主にとって不当に不利益なものとなっており,また,私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(以下「独禁法」という。)第15条第1項第1号に規定する「当該合併によって一定の取引分野における競争を実質的に制限することとなる場合」に当たり,同法に違反するものであると主張し(独禁法違反の点は,実際に認定され得るものであった。),合併に反対している。
〔設問4〕 Z社は,X社の株主としての権利を行使し,合併契約の締結や当該合併契約の承認を目的とする株主総会の招集を阻止したいと考えている。Z社は,X社の株主として,どのような会社法上の手段を採ることができるか。理由を付して説明しなさい。
【事実】 【事実】10から14までのX社については,その後,以下の15から20までの経過があった。
15.X社は,Z社の反対にもかかわらず,D社との間で合併契約を平成20年10月15日に締結し,X社取締役会は,当該合併契約の承認を目的とする臨時株主総会を同年12月1日に開催することを決定したことから,同社取締役は,その招集通知を発するとともに,株主総会参考書類及び次の議決権行使書面を株主に交付した。
16.これに対し,Z社は,合併条件がX社の株主にとって不利益であるとして,X社の株主に対し,合併契約の承認に反対する内容の委任状勧誘を行った。このZ社による委任状勧誘は,次の委任状用紙に基づいて行われており,金融商品取引法に従って行われたものであった。
委 任 状
1 平成20年12月1日開催予定のX株式会社臨時株主総会並びにその延会及び継続総会に出席し,下記議案につき,私の指示(○印で表示)に従って議決権を行使すること。ただし,賛否を明示しない場合,代理人名を記載しない場合及び原案に対し修正案が提出された場合は,いずれも白紙委任します。
2 復代理人の選任の件
記
| X株式会社とD株式会 社が平成20年10月 15日に締結した合併 契約の承認についての 議案 | 原案に対し | 賛 | 否 |
平成20年 月 日

17.X社に議決権行使書面を提出して行使された議決権の数は,合計3万6000個であった。そのうち,合併契約の承認議案に賛成と記載されていた数は5000個で,同議案に反対と記載されていた数は2000個,さらに,同議案に対する賛否の記載がされていない数は2万9000個であった。これに対し,Z社に委任状を交付した株主の議決権の数は,合計1万2050個であった。そのうち,会社提案の合併契約の承認議案に反対と記載されている委任状の議決権の数は2000個で,同議案に賛成と記載されている委任状の議決権の数は50個,さらに,同議案に対する賛否の記載がされていない委任状の議決権の数は1万個であった。
18.平成20年12月1日,X社の臨時株主総会が開催された。この臨時株主総会において議決権を行使することができる者を定める基準日現在において,X社は自己株式を保有しておらず,また,相互保有株式も存在しなかった。
19.Z社は,X社の臨時株主総会の議場に1万2050株分のすべての委任状を持参し,自ら保有する5000株分と合わせて,特に留保なしに,合併契約の承認議案につき,議決権を行使して反対の意思表示を行った。当該臨時株主総会におけるZ社以外のX社株主による議決権行使(議決権行使書面によるものを除く。)は,合併契約の承認議案への賛成が6000個で,反対が1000個であった。議場においては,X社とZ社が議案の当否及び投票内容の賛否への算入方法をめぐって激しく対立し,混乱したが,定款の定めにより議長とされているX社の代表取締役社長Eは,Z社の提出した議長不信任動議や,投票数の算入方法に対する抗議を無視し,合併契約の承認決議の成立を宣言した。
20.その後,X社は,平成21年4月1日を合併の効力発生日とする合併の登記を行うこととしている。
〔設問5〕 X社の臨時株主総会において,合併契約の承認議案に対し,賛否それぞれどれだけの数の議決権の行使があったと考えるべきか。次の①及び②の場合に分け,それぞれ理由を付して説明しなさい。
① X社株主には,X社に議決権行使書面を提出しつつ,Z社に委任状を交付した者はいなかった場合
② X社株主には,X社に議決権行使書面を提出するとともに,Z社に委任状も交付し,いずれにおいても合併契約の承認議案に対する賛否の欄に賛否を記載しなかったFがおり,同人の有する議決権が100個含まれていた場合
〔設問6〕 X社の臨時株主総会の終了後,Z社が合併の実現を阻止するためには,会社法に基づき,どのような手段を採ることができるか(〔設問4〕で解答した手段を除く。)。合併の効力が発生する前と後とで分け,それぞれ理由を付して説明しなさい。
出典:法務省「2009年司法試験論文式試験問題」。原本PDFから本文・表・図を抽出し、字下げ・下線・枠などの体裁を保ったまま、画面の幅に合わせて折り返しています。
